2015年01月31日

スポ根映画、Whiplash

〜 効果音:スネアドラム 〜

打楽器担当のひぐQです。世の中にはいろいろな映画があります。音楽がらみの映画も結構ある。が、「打楽器スポ根モノ」ちゅうのは珍しい。ということで勝手に紹介しちゃいます。 

舞台は米国ニューヨークにある一流の音楽院。そこでは若者達が修練の毎日を過ごしている。新入生のアンドリュー君は「バディ・リッチみたいな偉大なジャズドラマーになること」だけを目標に練習の日々を過ごしている…。これだけでも今どきあり得ない、昭和のドラマ的設定でしょ。なんのなんの、まだ序の口でございますよ。

その音楽院には特に厳しい名物先生がおります。人間、褒めながらフニャフニャ指導しても到達できるレベルはたかが知れている。安っぽい目標や甘えた自尊心が吹き飛んでこそ、本当に突き抜けたレベルに達することができる…と、言葉で聞けば結構な教育姿勢なんですが、これがまぁ、学生をけなしまくり、潰していくタイプ。急に優しくなるかと思えば、それは後で相手をさらに深く傷付けるための演技に過ぎない。まぁハッキリ言って性格異常者ですな。

一途なドラム少年と、異常性格先生。どちらも譲らぬ一騎打ちが展開していくのが、この映画なのであります。二人の人間が壊し合う、血まみれの争いです。っつーか、ホントに主人公はよく出血しますんで、鑑賞の際はお気をつけを。もう音楽もドラムもあったもんじゃない。音楽関係者が見れば「おいおい、ジャズってこーゆーもんじゃないよ」と言うでしょう。打楽器担当の私が見ても「ちょっと待て、それはドラムの話と違うやろ」と言いたくなる。早い話、ムチャクチャです。

それで良いんですよ。だって、現実のジャズ音楽の話じゃないし、ドラムの話でもないんだから。それをネタにしたスポ根なんです。昔の少年マンガみたいにストレートで、あり得ない世界。つまり「巨人の星」であり、「あしたのジョー」であります。それが21世紀に出現したという話でございます。

スポ根って、ある種の「癒しの物語」を提供するジャンルでしょ。人間誰しも現実に縛られ、「目標」とやらに縛られてしまう。そんな現実を打破し、「今の自分」を突き抜け、大きく成長したい…我々の心にはそんな要求が畳み込まれているものです。

現実に根ざしながら現実を超えた段階に至る、これがスポ根でしょ。野球に打ち込み、練習に練習を重ねて「消える魔球」を編み出した…って、現実にあり得へんやろ! でも、その現実離れしたところがポイントで、「野球に打ち込んで目標の巨人軍に入団しました」じゃ、スポ根にならない。「今の自分には把握できないような自分になる」という物語である必要がある。だって、ホントの成長って、そういうものなんだから。「英語上達のため」という目標を持って留学してみた結果、実は人間として大きく成長しました、なんてのはよくある話じゃないですか。あれですよ。

それをどこかで知っている我々だからこそ、一種の寓話としてスポ根を楽しむのであり、また鼓舞されたりするわけですな。誰しも、今の自分に見えているような「目標」なんかとは違うレベルにあるところに行きたい。でも実際問題、今の自分は今の自分なんだから、目の前の現実に対処するしかない。しかし、それを通じて今の自分を超えていくはずだ。そうだよね。だよね。でもちょっと不安もある。…という時にスポ根の物語に触れると「あぁ、やっぱり大丈夫なんだ」という安心感を得ることになります。ほら、一種の癒しでしょ。

そんなわけで、この映画は良質のスポ根です。そこに映画として奇妙な偶然が重なっております。この監督、実は若い頃、良いドラマーになりたくて懸命に練習してたんだけど、イヤな先生がいたこともあって挫折…あれれ、この映画、体験談かよ。一方、主人公を演じる俳優は、昔からいろいろな楽器をやってる人で、ロックバンドでドラムをやったりもしていた。けど、ジャズドラムは初めてだったので、今回の映画のため基本からやり直し、本当に血が出るほど猛練習、出血シーンの数々は本物です…おい、ドキュメンタリーかよ。というわけで、要所要所が奇妙にリアルなんですな。

この映画、最後の10分ほどは壮絶なバトルです。具体的には、壮絶なドラム・ソロです。ジャズドラムのソロとしてどうかと言われると困っちゃう。でも、凄まじいドラムです。これは「演奏」ではない。何かを超える瞬間が見える、聞こえる、そんな凄まじい何かです。


というわけで、見れば楽しめるし、ついでに言えば批評家の評価も高い映画となっております。その一方、純粋な音楽好きにとっては、ましてドラマーにとっては、物語は理解しつつも一種の距離感を感じることになる。まぁ本当に野球をやっている人が「巨人の星」をどう思うか、ちゅう話ですな。

でも、良いじゃないですか。スポ根なんだから。ドラムについて何も知らない純真で一途な少年がこの映画に感激して「おぉ、オレもドラムやりたい!」とか思ったら妙だけど、まぁ良いじゃないですか。それはそれでアリだもんね。

というわけで、今時珍しい成功したスポ根映画、私としては「音楽好き+ドラマー」という二重苦を背負いつつも楽しめたという話でございました。なお、この映画、スネアの音に始まりスネアの音に終わります。文字の上ですが、私も真似してみましたぁ〜

〜 効果音:スネアドラム 〜


posted by YASU-Q at 01:04| Comment(1) | TrackBack(0) | 映画インプレ